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大阪地方裁判所 昭和35年(タ)132号 判決 1965年3月30日

原告 久保守雄

被告 遇憲史 外一名

主文

被告遇憲史と被告遇孝先との間に親子関係の存在しないことを確認する。

訴訟費用は、被告らの負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文一項同旨の判決を求め、その請求原因として、

「被告遇憲史は、原告と国籍中国山東省黄県遇家村訴外遇麗芳(大正一一年六月二〇日生)との間に、昭和三二年一二月一〇日大阪市東淀川区十三東之町一丁目一六四番地において出生したものである。

被告遇憲史の母である訴外遇麗芳は、昭和二一年九月二三日、被告遇孝先と婚姻し、大阪市東成区大今里本町一丁目六八六番地で同居していたが、被告遇孝先が昭和二四年八月渡台すると称して同所を去つたまま帰来せず所在不明のため、大阪地方裁判所に離婚の訴を提起し、昭和三二年一一月一一日離婚の判決があり、同判決は同年一二月三日確定した。

被告遇憲史は、被告遇孝先の所在不明中に出生した者であるから、民法七七二条二項による嫡出の推定を受けない子である。しかし、戸籍事務取扱等においては、右規定の適用があるとして、被告遇孝先の子であるとされる。よつて、本訴に及んだ。」と述べた。

立証<省略>

被告遇憲史法定代理人は、主文一項同旨の判決を求め、答弁として、請求原因事実を認めると述べた。

被告遇孝先は、公示送達による呼出を受けたが、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しない。

理由

一、公文書として真正に成立したと認める甲第一号証(判決謄本)、甲第二号証(出生届受理証明書)、甲第三号証(戸籍謄本)、甲第四号証(外国人登録済証明書)、甲第五号証(住民票謄本)、甲第七号証(判決確定証明書)、原告本人尋問の結果とこれにより真正に成立したと認める甲第八号証(出産証明書)、被告遇憲史法定代理人尋問の結果弁論の全趣旨を総合すると、被告遇憲史は、国籍中国山東省黄県遇家村訴外遇麗芳(大正一一年六月二〇日生)が、原告との間において、昭和三二年一二月一〇日大阪市東淀川区十三東之町一丁目一六四番地で分娩した子であること、訴外遇麗芳は、本籍鹿児島県薩摩郡樋脇町塔之原一三、八一〇番地乙号東金之助、同人妻スヱの三女ヱミ子として出生した者であるが、昭和二一年九月二三日被告遇孝先と婚姻し、これにより日本国籍をそう失し、中国の国籍を取得したこと、被告遇孝先とは婚姻以来大阪市東成区大今里本町一丁目六八六番地で同居していたが、同被告が昭和二四年九月頃から所在不明であり、昭和三二年一一月一一日大阪地方裁判所において離婚の判決をうけ、同判決は、同年一二月三日確定したこと、一方、訴外遇麗芳は、昭和二七年一一月から大阪市生野区新今里町三丁目一三七番地で原告と同棲をはじめ、その後現住所同市東淀川区西中島町一丁目九五番地に転居し、現在にいたること、訴外遇麗芳は日本国籍の回復を希望しているのでもちろん、被告遇孝先も中共政府による国籍の付与の申出を受諾する意思を有していなかつたことが認められ、以上に反する証拠はない。

二、右事実によれば、被告遇孝先および訴外遇麗芳は、いずれも中華の国籍を有する者と解すべきところ(大阪高裁昭和三七年一一月六日判決、判例タイムズ一三九号一三五頁参照)、被告遇憲史は、訴外遇麗芳の非嫡出子として出生した者であるから、出生により中華の国籍を取得したと解せられる(中華民国国籍法一条)。

そこで、本件は、外国人間の親子関係の不存在確認訴訟であるが、本件親子関係の一方の当事者である被告遇憲史(子)およびその法定代理人の住所地が大阪市にあるので、被告遇孝先の所在が不明であつても、わが国の裁判所の裁判権を肯定するのが相当と解せられる。(なお、被告遇憲史の法定代理の関係については、法例二〇条にしたがい、母の本国法である中華民国民法一、〇八六条、一、〇八九条により、遇麗芳が単独で被告遇憲史法定代理人となることが肯定される。)

三、つぎに、準拠法についてみるのに、本件は、被告遇憲史が被告遇孝先の嫡出子とされる親子関係の不存在の確認を求めるものであるから、法例一七条の類推適用により、その出生の当時母の内縁の夫の属した国の法律により定められるところ、原告は日本人であるので、わが国の法律によることとなる。

四、ところで、原告主張の請求原因事実の存否は、前記一項に認定したとおりである。そして、民法七七二条二項によれば、婚姻解消の日から三〇〇日以内に生まれた子は嫡出が推定されるのであり、実質審査をともなわない戸籍事務取扱等の上では、被告遇憲史は被告遇孝先の嫡出子として扱われるであろうが、本件のように夫の長期の所在不明の場合には妻が夫の子を懐胎したと考えられないから、右民法七七二条二項の適用はないと解せられる。したがつて、被告遇憲史と被告遇孝先間に親子関係は存在しないとすべきである。

五、よつて、原告の本訴請求は正当であるから認容し、民訴八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 平田孝)

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